クリのしくみを解説~葉っぱ・幹枝・花・実・種のはたらき~

「こびとの農園」では、農作物の花をモチーフに、つまみ細工の作品を制作しています。
ふだん食べている野菜や果物も、花に目を向けてみると、いつもとは違う表情を見せてくれます。
秋の味覚の代表格のクリの花が、白く垂れ下がる雄花、小さな緑色のイガイガに見える雌花が咲くのををご存知でしょうか。
また、「食べている部分は果肉ではなく種子の部分」で、「イガは皮」「鬼皮が果肉」など意外に知らないことも多くある植物です。
この記事では、クリの葉っぱ・幹枝・花・実・種をたどりながら、食卓につながる自然のしくみをご紹介します。
クリについて ~秋の味覚は、ドングリの仲間~

クリ(学名:Castanea crenata)は、ブナ科クリ属の落葉高木です。栗は英語で実はチェスナット(chestnut)と呼び、マロン(marron)はフランス語になります。
山野に生える小粒のクリは「シバグリ」「ヤマグリ」とも呼ばれ、大粒で食べやすい栽培品種へと改良されてきました。食用にされるクリには、ニホングリのほか、チュウゴクグリ・ヨーロッパグリ・アメリカグリなどがあります。日本の菓子でよく耳にする「和栗」は、おもにニホングリを指す言葉です。一方、甘栗の原料としてよく使われるのは、渋皮がむけやすいチュウゴクグリです。
クリが属するブナ科には、コナラやクヌギ、カシの仲間も含まれます。つまり、クリはドングリの仲間です。つやのある茶色い実も、かたい殻に種が包まれているという点では、よく見かけるドングリと共通しています。
日本のクリには、早生の「丹沢」、中生の「筑波」「銀寄」、晩生の「石鎚」「岸根」などがあり、品種や地域によって収穫の時期が異なります。「クリの旬」は一斉に訪れるのではなく、いくつもの品種によってつながれています。
昔から人間を支える植物
クリと人の関わりは古く、縄文時代の遺跡からもクリが見つかっています。
三内丸山遺跡(青森県)・桜町遺跡(富山県)・奥三面遺跡群(新潟県),大船C遺跡(北海道)では、クリの品種改良が盛んに行われていたことも知られています(参照:青森県史デジタルアーカイブ「33_青森県史別編三内丸山」)。
クリの木を使った杭や柱などが多く出土したことから、クリは食べ物であるとともに、暮らしを支える材料でもあったのです。
岐阜県山県市で生まれた「利平栗」
岐阜と関わりの深い品種が「利平栗」です。高糖度でほくほくとした粉質で優れた甘みがあり、「栗の王様」と呼ばれることもあります。大粒の丸形をしており、果頂部に産毛があるのが特徴です。
現在の山県市大桑地区で、土田健吉氏が中国産のクリと日本産のクリをかけ合わせて生み出しました。名前は、土田家に代々伝わる「利平治」に由来します。
岐阜では、旬のクリを使って茶巾で絞った「栗きんとん」で食べ親しまれています。
クリの葉っぱについて ~ギザギザの葉が、秋の実りを支える~

クリの葉は、長さ7~15cmほどの細長い楕円形で、先端がとがっています。枝に対して一枚ずつ、左右に位置をずらすようにつく「互生」の葉です。葉の縁には、先のとがったギザギザの「鋸歯(きょし)」があります。
表面は濃い緑色で、裏面はやや淡い緑色。若い葉の裏側には毛が見られますが、成長するにつれて目立たなくなるものもあります。

クリの葉は、同じブナ科のコナラ・クヌギによく似ています。見分けるときは、細長い形だけでなく、鋸歯の先までよく見てみましょう。コナラでは鋸歯の先が針のように突き出ません。またクリは先端近くまで緑色の葉の組織が続くが、クヌギは緑色が抜けて、茶色っぽくなります。葉の幅が最も広くなる位置や、樹皮の様子なども、樹種を見分ける手がかりになります。
クリの幹・枝について ~実を支え、暮らしも支えてきた丈夫な木~

クリの樹皮は、若いころには比較的なめらかですが、年数を重ねるにつれて縦方向の裂け目が目立つようになります。
クリでは、前年に伸びた充実した枝の芽から、春に新しい枝が伸び、その新しい枝に花がつきます。前年の枝は、翌年に実をつける枝を生み出す「結果母枝」と呼ばれ、そこから伸びて花や実をつける枝が「結果枝」です。
クリ材は堅く、湿気に強い性質があり、家の土台や土木用材、鉄道の枕木などに使われてきました。また、クリに含まれるタンニン類は、材の腐りにくさに関わるほか、染色にも利用されてきました。食だけでなく、衣や住にもつながる木だったことが分かります。
クリの花について ~ふさふさの雄花のそばに、小さな雌花~

クリは、1本の木に雄花と雌花を別々につける「雌雄異花同株」の植物です。同じ品種の花粉では実がつきにくい「自家不和合性」をもつため、栽培では異なる品種を組み合わせます
クリの花言葉は「贅沢」「私に対して公平であれ」。「贅沢」は、秋の味覚を楽しみにする気持ちが伝わります。問題は「私を公平にせよ」。英語の花言葉「Do me justice」の直訳で、イガイガした硬い殻に包まれて中が見えにくい様子や、中身の価値を正しく見てほしいというニュアンスに由来すると言われています。
クリの花が咲くのは、おもに初夏です。地域や品種によって前後しますが、5月下旬から7月ごろに、淡い黄白色の花が目立つようになります。秋の実りとはずいぶん印象が違い、枝先がふさふさと明るく見えます。

多くの小さな花が集まったものを「花序」と呼び、尾のような長い花穂を「尾状花序」と呼びます。結果枝の花穂の基部にだけ雌花を1~4個つける帯雌花穂が発生し、それよりも下には雄花だけをつける雄花穂がつきます。
目立つふさふさの部分は、おもに雄花です。萼にあたる花被が 6つに分かれており、長い雄しべが外に突き出しています。蜜腺から蜜を出し、独特の強い臭いを発します。
雌花には3個の子房がイガになる部分に包まれている構造で、それぞれが受粉して3つの実ができるのが基本です。雄花と同様に花びらはなく小さな花被があり、小さな緑色のかたまりから細いひげのようなめしべが伸びています。イガは果実の皮ではなく、葉に由来する器官が変化した「殻斗」ですが、花を包む苞の集まりという意味でイガ=「総苞」と説明されるのが一般的です。ドングリの「帽子」にあたる部分が、クリでは実全体を包むように発達しています。
花のころには短く柔らかかったものが、実の成長とともに長く硬いトゲになります。秋になって突然イガができるのではなく、その準備は、小さな花の時期から始まっているのです。
クリの実について ~イガ・鬼皮・渋皮は、それぞれ違う部分~

初夏には小さかったイガは、夏のあいだに大きくなり、成熟すると緑色から茶色へ変化します。クリは成熟に伴ってイガが裂け、中の実が外れ落ちる状態になります。実だけが落ちる場合もあります。
さてこのクリを手にしたとき、どこまでを「実」、どこからを「種」と呼ぶのか考えなければいけません。
ふだんの呼び方と植物学上の区分を並べると、次のようになります。

| 目に見える部分 | 植物としての区分 | 特徴 |
|---|---|---|
| トゲのあるイガ | 殻斗・総苞 | 葉に由来する器官で、果実を包む |
| 茶色く硬い鬼皮 | 果肉(果皮) | 子房の壁に由来し、種子を包む 木質化して食に不適 |
| 内側の薄い渋皮 | 種皮 | 種子の表面を覆う |
| 食べている黄色い中身 | 種子(主に子葉) | 発芽後の成長に使う養分を蓄える |
つまり、私たちが食べているクリの部分は種子であり、果肉ではありません。
栗の渋皮には、ポリフェノールの一種であるタンニンが多く含まれています。タンニンは、活性酸素を抑制することで知られる成分です。渋皮ごと調理した栗を取り入れることで、より多くのポリフェノールを摂ることができます。
クリの種について ~ほくほくの部分は、小さな木のための蓄え~

クリは、養分を蓄える組織である「胚乳」が成熟した種子にはほとんど残らず、おもに子葉に養分を蓄える「無胚乳種子」の仲間です。
そのため、鬼皮と渋皮をむいたあとに現れる黄色い中身の部分は、おもに二枚の「子葉」です。子葉は、種子の中で育つ植物の体の一部で、クリでは厚く発達し、養分の貯蔵場所になっています。クリを割ったときに、内側に境目やひびのような線が見えることがあります。その中には、二枚の子葉が育って接することでできるものです。
クリは食品成分表では「種実類」に分類されますが、主な成分はデンプンです。ゆでた日本グリの脂質は100g当たり0.6gで、炭水化物がエネルギーの中心になります。
| 成分 | 含有量 |
|---|---|
| エネルギー | 152kcal |
| 炭水化物 | 36.7g |
| たんぱく質 | 3.5g |
| 脂質 | 0.6g |
| 食物繊維 | 6.6g |
| カリウム | 460mg |
| ビタミンB₁ | 0.17mg |
| 葉酸 | 76µg |
| ビタミンC | 26mg |
※文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」。炭水化物には食物繊維も含まれます
私たちがほくほくと味わっている部分は、クリにとっては新しい木として育ち始めるための大切な蓄え。そのことを知ると、一粒の見え方も少し変わります。
最後に

ふさふさとした雄花のそばに隠れた雌花。花のころから少しずつ硬くなるイガ。鬼皮の内側で、たっぷりと養分を蓄える種。
しくみを知ってから見つめると、見慣れたクリの姿にも、新しい発見があるのではないでしょうか。
「こびとの農園」では、そんな農作物の魅力を、つまみ細工という形でお届けしています。
次にクリを味わうときは、初夏に咲いていた花や、その実りを支えた木の姿にも、少し思いを向けてみてください。身近な食べ物から、農や自然とのつながりが広がっていったらうれしいです。




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