リコリス(スペインカンゾウ)のしくみ ~根・花~

こびとの農園は、「農作物の花」をモチーフにした、小さなつまみ細工を制作しています。
野菜や果物の花々は、ふだん目にする機会は少ないけれど、実はとても繊細で驚くほど美しい姿をしています。
農作物は「普通作物・飼料作物・緑肥作物・工芸作物」に分類され、工芸作物の中には薬用作物あります。その中でも、リコリス(スペインカンゾウ)は、古くから生薬として人の暮らしを支えてきた植物です。
見慣れた漢方薬の中にも、まだ知らない“自然のひみつ”がたくさん隠れています。この記事では、そんなリコリス(スペインカンゾウ)のしくみや、それぞれの部分がどんなはたらきをしているのかを、ご紹介していきます。
リコリス(スペインカンゾウ)について ~古代から重宝される生薬~

リコリス(Liquorice / Licorice)とは、Glycyrrhiza glabra(スペインカンゾウ)の根を指す名称です。混同されがちですが、ヒガンバナ属のLycoris(リコリス)とは異なります。語源はギリシャ語のglykyrrhizaで、「甘い(glyky)+根(rhiza)」と称される通り、「甘い根」をもつことが特徴です。
甘草(カンゾウ)は生薬・漢方の世界での名称で、Glycyrrhiza glabra(スペインカンゾウ)、Glycyrrhiza uralensis(ウラルカンゾウ)、などを含む上位概念です。
葛根湯は7種の生薬を組み合わせた漢方薬で、「葛根・麻黄・桂皮・芍薬・大棗・甘草・生姜」のうちの1つにも該当います。葛根湯以外にも芍薬甘草湯・小青竜湯にも含まれ、日本で流通する漢方処方の7割以上に配合されているといわれ、まさに「縁の下の主役」ともいえる生薬です。
甘草の歴史
リコリスは、ヨーロッパからアジアにかけて古くから活用されてきた植物です。
- 古代エジプト
・『エーベルス・パピルス(Ebers Papyrus)』での記載
・ツタンカーメン王の墓から甘草が副葬品として発見 - 古代ギリシャ
・『ヒポクラテス全集』:医者ヒポクラテスの著作群
・『薬物誌(Historia Plantarum)』:植物学の祖、哲学者テオプラストスの著作 - 中国
・『爾雅(じが)』:中国最古の字書、釈草篇に「蘦(れい)、大苦なり」と記載
・『神農本草経』:上品(無毒で長期服用が可能な養命薬)に記載、「国老」の称号
・『傷寒論』:多くの漢方処方のベースに
日本に初めて甘草が渡来したのは遣隋使の小野妹子が中国より持ち帰ったことで、正倉院御物として現在も保蔵されています(参照元:宮内庁HP 正倉院「甘草」)。正倉院に保存されている60種の目録である「種々薬帳」にも掲載され、実際に施薬院へ出庫された4種類のうちの1つにも該当し、甘草が一般的に利用されていたことがわかります。
江戸時代には、八代将軍・徳川吉宗の命により、甲斐国(現在の山梨県)で幕府用の甘草栽培が行われました(参照元:甲州市「旧高野家住宅 (甘草屋敷)」)。
- 旧高野家住宅(甘草屋敷):重要文化財
- 甲州甘草文書:山梨県指定文化財
日本でも、甘草は国家的に重要な薬用植物だったことがうかがえます。
リコリス(スペインカンゾウ)の根 ~甘いだけじゃなく、効能たくさん~

リコリスの根は、ハーブティーにほのかな甘みを添え、ヨーロッパではお菓子の材料としても親しまれてきました。
リコリスは、植えてすぐに根を収穫する植物ではありません。薬用植物の栽培資料では、根と地下の茎の収穫は、植え付けてから3年目以降が目安とされています。時期は一般に11月ごろで、寒冷地では9月下旬〜10月上旬。
根に含まれるグリチルリチン酸(Glycyrrhizin)とも呼ばれる「グリチルリチン」が甘みの正体です。砂糖の50倍もの甘みを持つとも紹介されるほど。また、スペインカンゾウに特徴的なフラボノイドである「グラブリジン」も確認されています。リコリスの根は、ひとつの甘味成分だけでは語り尽くせない、さまざまな成分を含む植物素材なのです。
ハーブティー以外にも、のど飴・グミなどに活用されています。
イギリスのポンテフラクト地方では、1614年までには甘草を使った小さな丸い薬用の錠菓がつくられ、1760年にジョージ・ダンヒルが甘草エキスへ砂糖を加え、菓子にしたと伝えられています。「ポンテフラクト・ケーキ」と呼ばれる甘草を使った黒いキャンディが誕生し、現代のリコリスキャンディの元祖とも呼ばれています。
のど・呼吸器系への効能:鎮咳・去痰(咳をしずめ、痰を出しやすく)
胃腸への効能:胃粘膜保護・胃痛緩和・消化性潰瘍・胃炎の補助
炎症への効能:粘膜・表皮系の炎症予防
リコリス(スペインカンゾウ)の花 ~知られざる可愛らしいマメ科の花~

甘い根で知られるリコリスですが、地上には小さなマメ科らしい紫色の花を咲かせます。一輪ずつは控えめでも、いくつも集まると、葉の緑にやさしい彩りを添えてくれます。
花をよく見ると、どこかで見たような形。エンドウやスイートピーの花を思い浮かべる方もいるかもしれません。リコリスも同じマメ科の植物で、蝶を思わせる「蝶形花(ちょうけいか)」をつけます。薬草という名前の印象から、ぐっと親しみがわいてきます。
花を見かけたら、こんなところに注目してみてください。
- 小さな花が集まって、ひとつの房に。 一本の軸に短い柄のある花が並ぶ咲き方を「総状花序(そうじょうかじょ)」といいます。
- 一輪は1cm前後。 顔を近づけて眺めたくなる、小さな花です。
- 色は淡い紫や青紫など。 系統によって花色にも違いがあります。
最後に

リコリス(スペインカンゾウ)には、想像もつかないほど、自然のしくみと命の工夫がぎゅっと詰まっています。
リコリス(スペインカンゾウ)の根・花、それぞれの特徴や役割を知ることで、ふだん何気なく飲んでいるハーブティーにも、こんなにも繊細で豊かな世界が広がっていることに気づいていただけたのではないでしょうか。そんな自然の営みは、私たちのすぐそばにあって、ほんの少し立ち止まって見つめるだけで、たくさんの発見や感動を与えてくれます。
「こびとの農園」では、そんなリコリス(スペインカンゾウ)の魅力を、つまみ細工という形でお届けしています。

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