こびとの農園とは

こびとの農園は、花鳥風月を映す日本の伝統工芸「つまみ細工」で、見過ごされがちな“農作物の花”の魅力を伝え、農と人との距離をそっと近づける活動を行っています。
畑や果樹園に咲く野菜や果物の花は、実の陰に隠れて注目されることが少ないものの、その姿は自然の営みの尊さを映し出しています。私たちは、その小さな花々に光を当て、つまみ細工を通じて美しさと意味を表現することで、食育や農業振興の一助となることを目指しています。作品づくりに加え、ワークショップやミニ講座を通じて知識を共有し、日常の中に小さな気づきと学びを届けています。
ひとつひとつの作品は、まるで“こびと”が花を摘み取り、そっと手渡してくれたかのような存在です。本物では同時に目にすることのない“花”と“実”を一つのつまみ細工に重ね合わせることで、農の背景にある物語を身近に感じていただきたいと願っています。

なぜ“農作物の花”なのか

畑や果樹園に咲く野菜や果物の花は、実をつける前にひっそりと咲き、ふだん注目されることはほとんどありません。
けれど目をこらせば、その姿は驚くほど繊細で美しく、自然の営みの尊さを映し出しています。
「これって、何の花だろう?」
そんな小さな問いかけが、日常の食卓に並ぶ野菜や果物をただの食材ではなく、生きた存在として捉え直すきっかけになります。花を知ることは、食べものの背景にある農の営みを知ることへとつながり、それ自体が食育の一歩にもなります。

現代社会では、農業人口の減少・都市化が進んでしまい、食と農の距離はますます広がっています。作物が育つ過程や生産者の思いに触れる機会は少なくなり、農業振興が強く求められる時代を迎えています。さらに日本の農産物は、海外からも品質や安全性が高く評価されており、世界に向けてその価値を発信していくことも不可欠です。
だからこそ、あまり語られることのない“農作物の花”に光を当て、その存在を伝えることには大きな意義があるのです。

この活動の背景には、私たち自身の歩みがあります。
岐阜大学応用生物科学部生産環境科学課程で農を学んだ二人として、そこで培った知識や視点をものづくりに生かしています。さらに、多治見はJAめぐみの、津川は岐阜県農業土木職員として、農業の現場が抱える課題や、食と人との距離が広がっていく現状を間近に見てきました。
ものづくりを通じて「農作物の花」という視点を示すことは、私たちにとって学びの延長であり、農業振興への小さな実践でもあります。
小さな花を通して、食べものの背景にある物語を感じていただけたなら、それは農の未来を支える一歩になると信じています。
つまみ細工で表現する“農の花鳥風月”
農作物の花の魅力を伝えるうえで、私たちが選んだ手法が日本の伝統工芸「つまみ細工」です。
小さな布を一片ずつ切り取り、ピンセットで折り、糊で留め、花びらを積み重ね、ようやく一輪の花が咲きます。
布の柔らかな質感と微調整できる繊細さは、植物特有の揺らぎ・やさしさを自然に近いかたちで表現するのに最も適しています。


つまみ細工は、江戸時代から日本人の暮らしに受け継がれ、四季折々の草花を映し出すことで「花鳥風月」の美意識を形にしてきました。本来、農作物の花もまた自然の循環を象徴する存在であり、私たちの食や暮らしを支える風景の一部です。にもかかわらず、その姿は実の陰に隠れ、ほとんど顧みられることがありません。
つまみ細工の繊細な技法で小さな農作物の花をすくいあげ、現代の暮らしに映し直すことに意味があると考えています。その普遍的な工芸性に、農作物の花を題材とする現代的な視点を重ねることで、伝統と農業振興を結びつけ、暮らしに新しい価値をもたらしたいと願っています。

私たちは花・実を観察し、スケッチを重ねながら、花弁の形や花芯・構造・色合いまで忠実に再現することを心がけています。そこには「ふだん目にする野菜にも、こんな美しい花が咲く」という発見を届けたいという想いが込められています。
つまみ細工では珍しく、彩色も白い布からすべて手作業で行います。水彩色鉛筆で繊細な濃淡を描き出すだけでなく、廃棄されるはずだった野菜から作られた「にしみのおやさいクレヨン」を取り入れるなど、色付けそのものにも意味を持たせています。


丹念な積み重ねが、花の命の揺らぎや瑞々しさを映し出します。ひとつとして同じ表情はなく、そのわずかな違いにこそ手仕事の価値が宿ります。こうした繊細な表現は、海外の人々にとっても「日本の農」と「日本の美意識」に触れるきっかけとなり、伝統と暮らしを結ぶ新しい物語を届けられると信じています。
それは大量生産では決して生み出せない、職人の指先からしか生まれない特別な表情です。
作品制作に留まらない“農への関心を育む活動”

私たちは作品づくりにとどまらず、ワークショップを通じて「野菜にはこんな花が咲く」という発見を共有し、布を折り形をつくる体験から食育の学びを広げています。
参加者が自らの手で作品を形にすることで、その学びはより深く記憶に刻まれます。完成した作品は日常の中で手に触れたり、人に見せたりすることで会話のきっかけとなり、食や自然への関心をさらに広げる役割も果たします。


また、私たちは岐阜大学で農学を学び、農業の現場に関わってきた経験を活かしながら、ワークショップの中で「ミニ講座」もあわせて実施しています。
野菜や果物の花の仕組みや育ち方などをわかりやすく解説することで、作品づくりと学びを結びつけ、食育をより豊かなものとしています。


こびとの農園は、こうした「学びを持続させる食育の場」をこれからも継続し、地域社会における食と農のつながりを豊かに育みながら、農業の魅力発信や農産物の消費拡大にも貢献していきたいと考えています。
こびとの農園の“こびと”とは ― 小さな姿に込めた想い
「こびとの農園」という名前にある“こびと”は、ただの象徴的なキャラクターではありません。
それは、目に見えにくい自然の恵みや人の営みに静かに寄り添い、その魅力をそっとすくい上げる存在として描かれています。
畑や果樹園に咲く小さな花をつまみ細工で形にし、暮らしの中に届ける活動もまた、同じ姿勢の延長線上にあります。ふだん注目されることの少ない農作物の花を見つめ直すことは、食や農の背景にある物語に光を当て、私たちの暮らしに新しい視点をもたらします。

“こびと”は、その小さな姿で大きな営みを映し出し、農と人とを結ぶささやかな仲介者です。
こびとの農園が目指すのは、この“こびと”の視点を通じて、自然と人の距離をそっと近づけ、日常に小さな気づきと学びを育むことです。
私たちの作品が、日常に小さく寄り添えるような作品になりますように!
